その人は人前ではいつも花や果物の様ないい香りがしていたが、
香油の抽出も自分でやっていたので、つまり香油を作っている日は人前には出ない
作る過程で身にしみるキツい匂いは、次の日は香油を身につけなくてもちょうどよいくらいだ
抽出デーである今日はいつもの派手な服装からは遠いシンプルな黒のシャツを身につけている。
記事もツヤツヤ光るシルクではない。
モソッとした木綿だ。汗の吸収がいいし、汚しやすい。
香油作りもまだ序盤で、オレンジの表皮を下ろし金でガリガリとこそげ落としていた。
指先が既に黄色く染まっている。
オレンジ一個分削り終わるごとに、その僅かな表皮を慎重にオイルに落とし込んでいく。
表情はつまらなそうでもなく、だからと言って面白いそうでもない。
ただその横にいる、表皮の無いオレンジを剥いては口にしている彼女はあからさまに不機嫌そうだ。
白い渋皮に爪をしばらく立ててから、机を叩いた。
「渋皮が滑って剥きにくいぞ!まったくオレンジ食べ放題と言うから来たのに…」
癇癪を起こしたように机をさらに二度叩いた。
「ナイフを貸そうか?」
「そういう問題じゃないだろ!」
白いオレンジが飛んでくるのを、男は慌ててキャッチした
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