「・・・弱い子なんだ」
「は?」
「彼女は弱い子だ。
俺は、彼女を守ってやりたいと、思った。」
俺は何も言えない。
「そして『普通』の子だ。悪い子じゃない。少し、考えてあげてくれ。」
何も言えない。
「お前なら、彼女を強くしてあげられるかもしれない。」
いつもの通りのつぶやくようで良く通る声で。
俺は少し泣けてきた。悔しかった。
「お前は悔しくないのかよ。」
俺の顔を見た。
「多分、お前より悔しくない。」
「何で」
「そういうもんだ。」
風が通り抜けた。
「お前は大物になる。」
「・・・お前のが大物だよ」
「俺は将来」
そのとき初めて奴の未来の話を聞いた。
「なんとか仲間を見つけて、やっていけると思う。
お前みたいな奴が世の中にはまだまだいると思う。」
「お前も大物になれよ」
口からぽろりと出た。
奴は笑って続きを話した。
「少し、派手な職につきたいと思ってる。
マスコミは、普通じゃないほうが好きだ。」
「芸能界か?」
「歌が好きなんだ」
少し恥ずかしそうに笑った。誇らしげでもあった。
「初耳だぞ」
「音楽関係がいい。俺は家を出るだろう。」
俺は将来なんてあんまり真剣に考えてなかった。
奴は輝いて見えた。いつもよりカッコよく見えた。
「俺はたまに、自分に嘘をついて他人にとりいろうともするだろう。
そうしないと世の中渡っていけない。」
「お前が・・・?」
「でも、お前はできるだけ素直に生きろよ。
少し短気だが、そこが魅力になる。」
予言者みたいに言った。
「俺は、将来なんて何も考えてない。」
少し急いて言った。でも奴は微笑んで、
俺の頭をぽんとなでて言うんだ。
「将来は大物だ。」
キッパリと
言い切った。
(続く)
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