それはそれは美しいまんげつのよるでございました。
そのへやの小さな窓からも美しいまんげつの光がするりとおちておりまして。
そしてその光の一端を浴びましたせいでございましょうか、そのへやの中には美しくもふかいみどりの森がしげりへやの底面をうめつくしてしまっておりました。
ああ今紫の花が咲きました。しろいしろい、ゆりも咲いてまいりました。
あのかはいらしいのは野ばらでございましょうか。
ああするりと、美しいまんげつの光のような白い腕が一本、伸びてまいりました。
「オマエヲオルヨ、アカイノバラ」
花はふかいみどりのすきまの白い寝台の中へ引き込まれてゆきまして。
ああ、ああ、夜も深く。
野ばらはゲーテの。
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