「この世界がすばらしいなんてことも、この世界なんかなくなっちまえなんてことも、歌うとするだろ。
どっちも楽しいんだ。
歌じゃなくってもそうかもしれない。」
「そりゃロックだからじゃん?俺らはとても輝かしくファンキーだからさ」
夕陽に髪をキラキラさせて、二人で屋上でタバコをふかしてた。
全也はちらりと番弥に目を向けた。
ニヤリと笑う顔を見た。
いつも迷わない、答えを知ってる顔を見た。
「その答えで全て?」
「全、なり」
クックックッと、喉の奥で笑って、名前で答えられる。
「草明が・・・」
「ヒロが何?」
「草明が、オマエを羨ましがるの、わかるよ」
へっ?と、番弥は変な顔をした。
「・・・俺は全ちゃんが一番羨ましいけどね。」
番弥はそう言ってタバコを銜えたが、全也はとくに表情を変えない。
ゆっくり煙をはいてから。番弥は眼下を見下ろしつつ口を開く。
「全ちゃんは、俺よりずっと答えに近いはずだ。俺が簡単な言葉で妥協してるだけさ。俺は知ってて妥協して、軽くなろうとしてるんだ。」
そんなことをすらすらと、言った。
「どうせ全ちゃんだって悩んじゃいないんだろ、オマエ絶対俺より悩まないはずだよ。野生系だもん」
空は暗くなってきて、風の温度が下がってゆく。
強い風が一瞬吹いて、ブハっと番弥は言った。
「戻るか。」
うん。と番弥は言った。
動いたのは番弥のが早くて。
跳ねるような足取りで階段へ向かった。
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