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ついった
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そいつはフェンスに寄りかかって座り込んでイヤホンをしていた。
風に乗って軽い音がここまで飛んでくる。
俺はズカズカとそいつの目の前まで言ってしゃがみこむ。
目線を合わせた。
そいつはイヤホンをはずして、
「何だ」
と言った。
そいつは、いやコイツは。
ちょっと目が据わってて、あんまり目つきが良くなくって。
声も抑揚が無いし、表情とかあまり変えない奴で。
髪が灰色っぽくて。
つまり若干怖い外見なので。
ちょっと、ひるんだ。
なるべく動揺を顔に出さないように、頑張った。
俺は何してんだと思った。
「お前さ、楽しい?」
何聞いてんだ俺、と思った。
「何だそれ」
つっこまれたじゃん俺。
そいつは確かにそのとき、驚いた顔をしていた。
だから俺もそれを見て驚いた。
目を見開いていて、今まで見た中で一番フツウっぽい顔だった。
少し複雑な顔をしていた。それがフツウだと思う。
「普通の顔できんじゃん。」
思わず呟いた俺にそいつはもう一度驚いてくれた。
「オマエ・・・同じクラスか?」
「あぁ何、クラスの奴覚えてないんだ」
「見た顔だとは思う」
「北っつー名前だけど」
「北川とかか?」
「いや、オンリー北」
ふーん、とそいつは少し目線を泳がせた。
「俺は」
「お前の名前は知ってるよ」
「そうか」
「つかお前の名前なんかクラス中の奴が知ってると思うぜ。
 フェアじゃないよな。」
「誰が?」
「・・・俺?」
虚をつかれて疑問形になった。
そいつは笑った。
「お互い様だろう」
そいつは笑っていた。
何となく俺も笑えてきた。
意外に普通に話せるものだと思った。
自分が意外に「変」なのか、意外にそいつが「普通」なのか。
俺はともかくそいつをとても気に入った。
俺は笑った。
そいつが笑った俺に対して何を言ったかは、
残念ながら覚えていない。

(続く)

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